ヨナとつく地名
沖縄の地名の特徴として、同じ名前が各地に点在していることがよくあります。 これは、その地名の発祥が地勢の特徴から名づけられたことから始まっているからだそうです。そういった発祥を持つと言われる地名地域を挙げてみます。
●ヨナ・ユニが発祥の地名
沖縄には「よな」の音を持つ地域が多く見られます。
いくつかピックアップすると、与那原町(島尻郡)・与那・与那覇岳(国頭村)・与那覇湾(宮古島市)・与那覇堂(那覇市)・与那城(うるま市)・世名城(島尻郡八重瀬町)・与那嶺(国頭郡今帰仁村)・与那川(国頭村)・与那堀(糸満市)・与那浜(宮古島)・与那良(竹富町)・与根(豊見城市)・与論島(鹿児島と沖縄の境・方言でユンヌと呼ばれる)・与路(鹿児島県奄美大島・方言でユルと呼ばれる)と、これだけの地域が挙がります。
沖縄の方言でヨナ(ユニ)は砂をあらわし、これらの地域は砂地の土地という特徴が共通します。この「ヨナ=砂地」という見解を、さらに踏み込んで研究された方もいます。 沖縄県立博物館の富島壮英氏の「ドゥナン(与那国)語源考」(1989年)によると、琉球諸島の海岸のいたるところに自生する「ゆうな」と呼ばれる喬木(きょうぼく※背の高い木)を元にその名が付いたとしています。
「琉球列島植物方言集(天野鉄夫著)」では海岸近くの沖積地は「ユナ」と呼ばれていて、そこに自生するオオハマボウを住民が「ゆうな」と呼ぶようになったことを記しています。つまり、砂地、そこに生える木、それらを「ユナ」と呼び、そこが「ユナ→ヨナ」と名づけられたという見解を示しています。 周辺では「ユナ」に関連すると思われる方言があります。八重山では海岸にある洲を「ユニ」と呼び、那覇港の付近には「イナン」と呼ばれる干瀬(ヒシ※珊瑚砂の体積した平らな浅瀬のこと)があります。 永良部や国頭辺では干瀬を「イノ」と呼んでおり、地域によって言葉が微妙に変化していったさまがあらわれているようです。
金城朝永氏の「沖縄地名考」では、別の見解も示しています。首里王府編纂の歌謡集「おもろさうし」には、与那国を「いにゃぐに(いなぐに)」と記述してあることから「稲(いな)」「米(よね)」が起源ではないかと考察しています。が、最終的には「砂と解して差し支えないようだ」と結論づけられています。 沖縄は、四方を海に囲まれた島々のため、砂浜も数多く存在します。砂を語源にした地名が数多く付けられたのは、必然といえるのでしょう。沖縄旅行で訪れた際に、海岸線を歩きながらその場所の地名に思いを馳せてみるのも面白いですね。
余談ですが、金城朝永氏の「ヨナ=稲」説は沖縄を離れた場所で信憑性を増すこととなります。稲の穀実が砂の粒に似ていることから「砂(ユナ)」の言葉は本土を北上してゆきながら「稲(いな)」「米(よね)」と変遷してゆきました。本州に、伊奈・引佐・因幡・印南・夜梨・米生・米田・米子・与禰といった稲作に関連する言葉や地名が遺されているのはたいへん興味深い現象です。