勢理客
沖縄旅行では行き先を説明するときに、読めない地名で困ることも多いですが、なぜ難読な地名が多いのでしょうか?
その理由は、土地の人が琉球語で読んでいた地名を、後世の人が当て字で漢字を当てはめたからだと言われています。
奇妙な現象ですが、北海道にも同じように難読地名と不可思議な漢字表記がありますね。
北海道も、昔は日本の領土ではなく、アイヌ人の住む「蝦夷が島」でした。
明治維新以降「北海道」として支配下においた政府が、アイヌ語で呼ばれていた地名に無理やり漢字を当てはめたので、ヘンテコな文字列の地名になったのです。
海外でもイギリス・スコットランドには古来ゲール語由来と思われる地名もあるそうですが、日本のように音読と視覚で混乱が生じてしまうのは、漢字文化ならではなのかもしれません。
話を沖縄に戻しましょう。
浦添市には「勢理客」という地名があります。場所はこの辺りです。
ここも難読地名クイズではおなじみです。
伊是名村や今帰仁村にも同じ地名があり、「じっちゃく」と読む地域と、「せりきゃく」と読む地域があります。
沖永良部島には瀬利覚(せりかく)という同様の地名があります。
「じっちゃく」という読みは、「せりきゃく」が沖縄読みの「しりちゃく」となり、訛ったとされています。
琉球の古歌集「おもろそうし」には「せりかくのろの…」で始まる唄があり、過去に“せりかく(せりきゃく)”と呼ばれていたことがわかります。※のろとは神女のこと
地域も離れているのに、同じ名が付くことは沖縄ではよく見られる傾向ですが、この地名には地理に関したある由来が存在すると推測されています。
平良恵貴著「琉球の地名と神名の謎を解く」に、興味深い見解があります。
いずれの「勢理客」の地も、海につながる川の河口に隣する村落であり、魚の通路を前にした村だったというものです。
魚を獲るために、その村落では竹で編んだ網代垣をそこここに仕掛けた風景が見られました。
その特異な風景から「あじろかき」の地名が付き、やがて「(あ)しろかき」「せりかく」「せりちゃく」「じりちゃく」「じっちゃく」と、長い間に読み方が変遷していったのではないかという説です。
沖縄には、「奥武島(おうじま)」という無人島がそれぞれ離れたところに4つも存在しますが、この島の名もかつての風習にちなんだ呼び方が由来となっていました。
このことからも、この「網代垣→じっちゃく」説はかなり有力な推論なのではないかと思われます。
ちなみに、浦添市では1996年11月25日の住居表示実施の際に、正式な読み方を「じっちゃく」と制定しています。
いにしえでは、(恐らく)「せりかく」と呼ばれた地は、永い年月を経て「じっちゃく」と(一応は)公式に決まりました。
しかし最近では、地名の方言読みを標準語読みにする傾向も強まったり、反対に琉球時代を再評価して昔の読み方を復活させたりとその動きも土地によって様々あります。
「じっちゃく」の読み方も、今後未来に向かっての永い間、また変化するかもしれませんね。